無制限介入によるスイスフランショック

無制限の売り介入という奇策。インフレリスクと隣り合わせ

スイスのイメージ

 

経済政策は危機に直面したとき、捨て身の選択を採ることがある。スイス国立銀行(中央銀行)は、自国通貨高に業を煮やし、9月6日に対ユー口で無制限のスイスフラン売昨八介入という異例の政策を決定した。これを捨て身と呼ぶか、無謀な冒険と呼ぶか、その評価はまだ定まってはいない。円高に苦しんでいる日本では他人事だとは思えず、スイスの無制限介入が成功するかどうかは多くの人が固唾を飲んで見守っている。

 

9月中の推移に限ってみると、ユーロに対してイスフランのレート維持は成功しているといえる。スイス国立銀行は、「もはや1ユーロ=1.20スイスフラン以上高くなるのは我慢できない」として、為替レートの防衛ラインを1ユーロ=1.20スイスフランと定めた。スイスフランが買われると、スイス国立銀行が反対売買を行ってスイスフラン売りを継続する。スイスフランが下落するまで、自国通貨を売り続けてユーロを買い続ける仕組みだ。

 

今回の仕組みで興味深いのは、上限のみを設定する方式である。ユーロに対して決まった為替レートを維持するというユーローペッグ制とは異なる。もしも、レートを固定するというルールならば固定相場制になるが、このときは必要な介入金額はもっと膨大になる。上限があって下限がないとい弓方式は、為替変動で市場介入の目標とする幅を明示する「ターゲットゾーン構想」に類似しているといえる。

 

上限を明示する効果はどこにあるのか。為替市場の参加者は、スイスフランの上限1ユーロ=1.20スイスフランという値に相場が接近すると、為替介入を予想してスイスフラン買いを手控えることになる。為替介入の実施を市場にアナウンスして介入への期待形成を生み出し、市場による自己実現的な期待形成を起こすことで強力にターゲットを維持させる。無制限といいながらも介入資金の総額を相対的に節約できるため、厳密にいえば無制限介入と称しながら、実は介入資金を節約して牽制効果をうまく使おうとするところにスイスの方式のポイントがある。

 

 

介入資金は膨大に。過去にもインフレ進行

無制限介入で自国通貨安をストップしようとすると(自国通貨買い)、外貨準備を使い果たす限界があるために不可能だ。一方、自国通貨売りをするのならば、技術的には自国通貨を増刷すれば無制限の介入が可能な理屈だ。ただし、自国通貨を売りまくると、あふれ出す通貨供給量がインフレを巻き起こす可能性がある。介入資金を吸収することなく民間部門に積み増していくと、どこかで物価が上昇し始める可能性があるので、そうなると弊害を抑制するために無制限介入をやめざるをえない。

 

近年のスイスの消費者物価上昇率は、1994年以降のほとんどの時期で2%以下の低率で推移しており、インフレリスクが想定されにくいとい弓事情が自国通貨売りを容易にさせたと理解できる。しかし、スイスは過去、78年にドイツマルクをターゲットにした為替管理を試みたが、インフレ率が上昇してしまった苦い経験がある。

 

また、スイスの為替管理方式は、為替の変動幅に上限を設定しつつ、下限は設定しないで自由に取引を容認する「管理フロート制」の一種ともいえる。「管理フロート制」は、取引レートを1本にする固定相場制と、レートを放任する変動相場制との中間的な存在である。固定相場制よりはレート維持の力は弱いが、日本のように介入の目標を明示せず臨機応変に対処する裁量的な介入政策よりはレート管理の力は強い。

 

一方、目標の数値に到達すれば必ず介入を行わなければならないため、介入コストは裁量的な介入政策よりも大きくなる。スイス国立銀行の介入は2010年前半だけで1400億スイスフランスワという規模にのぽっており、今回の方式を実施すれば介入資金の節約とはいえ結局は途方もない規模に膨らむ可能性がある。

 

通貨高で競争力低下 追い詰められた窮余の策

スイスが問題の多い無制限介入をあえて採用した背景を考えると、スイスの苦しい事情が浮かび上がる。今年7月からギリシヤの債務問題の火種が再燃し始めて、欧州資金の「質への逃避」が起こった。スイスフランは、対ユーロで急上昇する。スイスは欧州連合(EU)向けが輸出の6割を占め、実質国内総生産(GDP)に対する輸出の依存度が3割と高い。スイスにとって通貨高のダメージは、観光業への打撃や精密機械などの輸出競争力の低下につながる。スイス企業の間には、通貨高に耐えかねて活動拠点を海外に移そうとする空洞化の機運もあるという。

 

金融面でも、スイスはチューリヒやジュネーブといった国際金融市場を有している。この点で、通貨高に伴う資金流人はプラスのはずだが、総合的にみて行き過ぎた通貨高は容認できないという判断になったのであろう。スイスといえば、世界経済フォーフムで発表される「世界競争カランキング」で対象142力国中で1位である。日本は今年は9位で、以前から後塵を拝している。それでもスイスは、ユーロ高が強烈に進んだことで耐えられなくなった。

 

これまでの経緯をみると、スイス国立銀行は金融緩和のため、8月に入って当座預金目標を300億スイスフランから800億、1200億、そして2000億スイスワヘと3度も引き上げた。スイスの名目GDPが5500億スイスリの規模なので、スイス国立銀行の資金供給量がいかに大きいかがわかる。それでもフラン高が止まらない。柔軟に考えれば、スイスには無制限介入の方式よりも他の選択肢もあったのではないか。しかし、そうした代替案を試みる時間的余裕はすでになく、なりふ口構わずに無制限介人という奇策に打って出たのだろう。スイス国立銀行は、コストをかけてでも通貨高阻止を優先しようという選択肢を否応なく選ばされたということになる。

為替相場と物価の維持 ペッグ制では両立困難

スイスにとって他の選択肢は採用できなかったのだろうか。最もスイスフランを安定化させるのは、ユーロ圏に加盟して金融政策の裁量を欧州中火銀行(ECB)に譲り渡すことである。通貨統合だけでなく経済統合を進めることは、EU向け輸出に依存するスイスにとってメリットは大きいはずだが、永世中立を標榜し国民の主権意識の強いスイスはEU加盟をこれまでも選択していない。ましてや、スイスフランをユーロに変えてしまうといケ究極の対応は今回も選ばなかった。

 

次に、スイスフランの安定化が図れる方策は、「ユーロ・ベッグ制」かユーロに対する「クローリングーペッグ制」である。ユーロとの固定レートを設定するペッグ制に対し、クローリングーペッグ制は経済情勢に応じてレートをスライドさせていく可変的な固定相場制である。しかし、これらの方式も、介入のために資金供給量が膨らむ可能性があるほか、金融政策の目標が国内物価ではなくなるというデメリットがある。特に、インフレが起こったときには、スイス国立銀行は為替相場と国内物価の維持という二重目標に苦しむことになる。

 

実は、これらの政策のほかには、金融取引税を使って過度なフラン高を牽制する方法もあった。トービン税ともいわれるこの金融取引税は、外貨とスイスフラン建ての問の金融取引に課税して、短期売買になるほどコストが高まるようになる投機防止措置である。長い間、机上の思考実験でしかなかったが、ブラジルが09年10月に導入へ踏み切った。金融取引税に関心を抱いている政治首脳は多く、EUは金融取引税を導入しようと検討を進めている。

 

しかし、国際金融センターを抱えているスイスで、為替の安定だけを優先し、金融市場の取引コストを割高にするような金融取引税は選択できるはずはない。世界各地の金融センターは資金を招き入れるために規制緩和や市場インフラを整備する競争を行っているのに、それに逆行するよすな金融取引税は論外だと目に映るだろう。そうした金融業にとっての弊害を最小限にとどめる狙いも今回の無制限介入の念頭に置かれているとみられるが、膨大な介入資金によるインフレリスクと常に隣―合わせを迫られることになる。

参考になるバイナリーオプションやFXのサイト

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ユーロの利下げについて

注目のECBで予想外に25Bpの利下げが行われ、ドラギ・ECB新総裁は会見で継続的な利下げの可能性を示唆したために、ユーロは再び下落する展開となった。この動きにその他の主要通貨やクロス円通貨も下落で反応したが、再びギリシャの国民投票回避の材料でユーロが急反発すると、その他の通貨もこれに倣って値を戻す動きとなった。 更に、上下を繰り返していた米国株式市場が上昇傾向を強め始めた事も市場の安心感に繋がったと考えられ、各通貨とも底堅い値動きを続けながらこの日の取引を終えている。